SSS
18 作品
あまねけ!ニュースレターに掲載された写真や、それ以降に文章を付与された写真です。
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海のおわりのこと 西なぎさには沖からのとても強い風が吹いていました。うねるように濁った海が、右や左から大きな白波を投げつけてはわたしに飛沫を飛ばそうとします。空では美しい雲が目まぐるしく姿を変えているのに、生ぬるい突風が運ぶべたべたしたクリームは雪のように肌に積もって離れません。小さな島の端に続くコンクリートの舗道は、長年こうして潮の気まぐれに晒されたせいで、なめらかな表面のトロウェルが剥がれてすっかりぼろぼろです。 まるで30番の板やすりに座っている…
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ユウちゃんとわたし 結局、ユウちゃんが何を考えているのかはよく分からなかった。 せっかくの休日なのに、無遠慮な着信音でいつもより二時間早い起床を強いられる。私の不機嫌そうな声なんて全く気にしない電話の主は「今からお出かけしましょうよ」と、昔二人で見た百合アニメの……えぇと、名前を忘れたけど、そのキャラクターのセリフをまねしてみせた。窓から外の駐車場を覗き込むと、やはりセーラー服を着た怪異が私に手を振っている。 外に出ると、ユウちゃんが「来ちゃった」と言っ…
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海を渡って 「私、海を渡るのってはじめて」 「うん、私も。ここよりずっと広くて綺麗だよ……きっと」 やっと、辿り着いた。海だ! 教科書の小さな写真でしか見たことのない、広くて大きな水の塊。夢の中で何度も指先でなぞった、ぷにぷにでつやつやした不思議な凹凸。この抜け道を見つけるまでは、この灰色の壁の向こうに世界が広がっていることさえ想像できなかった。でも、ここから逃げれば、きっと。 学校 から逃げた私たちは、外の世界にさらに高く広がるコンクリートの壁…
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益田岩船 この写真は益田岩船 2を別角度から撮影したものです。 *** 小雨の降る住宅街の坂を抜け、足場の悪い曲がりくねった細い山道を進んでいくと、開けた竹林の中に巨大な岩が現れます。ガイドブックに小さく記された「岩船」という文字からは決して想像できない不思議な光景でした。上から大きく2つの穴が開けられ、周囲に古代文字とも取れる無造作な溝が刻まれた巨石は、確かに異世界へ飛び立つ船のようにも見えます。 奈良県橿原市にある益田岩船(Wikipedi…
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青いポストをさがして 「畑中は真面目だなぁ。いいんだよ、ポストの色なんてどうでも」 「そうはいきません。私の進級がかかってるんですから」 大学近くの小さいアパートから、先輩の車で408号線を南下してたっぷり三時間。海辺の街の青いポストの前で、私は小脇に抱えた長形三号の封筒に証拠写真を放り込むために、押し入れから引っ張り出してきたカメラを構えていた。 仏語実習の五十嵐先生が、単位を認めるには出席日数が明らかに足りない学生たちに課した救済措置。それは「最終レポ…
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水神社の前で 「願い事を思い浮かべながら水神社の鳥居をくぐると……って、昔みんなやってたじゃない?」 下校中。信号の待ち時間を持て余したシイが、横断歩道の向こうにある鳥居を指さした。シイと同じ六高の制服を着た頭一つ背の低い女子は、幼なじみのマトイである。彼女たちは同じ保育園と小・中学校で育った白淵団地の住人同士であった。二人とも右の口元に小さなほくろがあって、まるで姉妹みたいと言われるたびに、マトイは少しくすぐったい気持ちになるのだった。 マトイは…
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ポータルと浸透について 私たちが 浸透 と呼ぶ現象は、主にこうした古い ポータル のような姿で目の前に現れます。 浸透 の特徴は大きく分けて3つ。突然に――そう、いつも突然に、通報が来るまで気付かない。古びた姿で――例外なく、老朽化したみすぼらしい状態で。そして、正しい ポータル のふりをする――何人か住人が消えるまで、その場に留まっているのです。 このように場違いな(Out-of-Place)ゲートが各地に現れる原因は、ほとんどが不適切に残された古い ポー…
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すてきなロープウェイ マキさんに「今日でこの街も最後だし、もう一度行ってみない?」と、まるで今思いついたように連れてこられたのは、山の上のロープウェイのりばでした。お昼に入ったファミレスでドリンクバーをミックスするのさえ飽きてしまった後のことでしたから、残っているのは乗客を見送る家族だけです。もうちょうど、今日の最終便が頂上へと向かうのを見送ることしかできません。 「少し遅かったですね」 「また明日来ればいいわ」 駅舎に取り付けられた大きなスピーカーから、…
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エメラルドの海 刑部岬の展望台に到着したのは、十一時より少し前のことでした。車を降りると春みたいな夏みたいな曖昧な太陽と、冬みたいな春みたいな冷たい風が我々を出迎えます。大きなジープでくねくねの急勾配を進んだ先に広がるこの数キロメートルの断崖絶壁は、かつて「東洋のドーバー」と呼ばれていたようですが、全てが崩れ落ちた今となっては、たくさんの白い鉱船が停泊している港と、それらを囲む大きな灰色の防波堤しか見えません。 防波堤は太平洋に向かってまっすぐ突き出…
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道の向こうに 「ピンクの麦わらってさ、趣味悪くない?」 「どうして? 可愛いじゃない。それに、ミキさんはこんなの着けてなかったでしょ?」 リリがその場でくるりと回ってみせた。白い肌とシルバーの毛先が、朝日に照らされてよく輝いている。パステルピンクの麦わら帽子を淡いピンクのワンピースに合わせると、まるでmoemoe emoTIONのジャケットアートみたいだ。 ペットボトルを一口。深呼吸をして、海岸に続く遊歩道を歩き始める。案内板には遊歩道と書かれてい…
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砂を泳ぐ魚 北浜(と先輩が呼んでいた)に着く頃には、すっかり日が傾いて海風が弱くなっていた。肌寒い夜に覆われる前の潮だまりのような時間が心地いい。 コンクリートの堤防を越えると、粒の揃った砂利浜にまるく磨かれた石がたくさん埋もれているのが目に入った。ひとつひとつの塊から長い影が伸びていて、じっと見つめると太陽に向かって這っているようにも感じられる。 左右を見渡しても、シーズン・オフの海水浴場には誰もいない。秋になったばかりの、しかも夕方の海なんて…
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どこにも進めない案内標識 市場はもちろん、市場周辺のあらゆる構造物はそこに在るべき理由を見失っている。歩道橋の入り口は塞がれているし、案内標識はもはやどこへ案内する気もない。 とはいえ、本来虚無たる廃墟というのはそういうものだ。流石は都営の廃墟といったところだろうか。 虚無デパートより
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駅まで続く階段 「まだ降りるんですか、先輩……」 特別区に向かうプラットホームへの階段を450段あたり――高さにしてまだ100メートルほどだろう――降りたあたりで、クロが私の手を引いて立ち止まる。こうなることは分かっていたけど、彼女を一人でラボに置いてくるにはあの場所はあまりに不安定だった。 「でも、ヨンちゃんがいないと、私たちの実験も進められないからさ。ね?」 「それは、分かってますけど……」 この先にある第三レストより下層は、断続的に通路が崩落し…
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砂の道路で 「ねぇ、やっぱり道路なんかないじゃん!」 土手を駆け上がって向こう側を見下ろしたマヤは、同行するサナに聞こえるように大きな声でそう喚いた。身体が弱くて災害用のリュックを背負うのがやっとのサナも、彼女の後をついて少しずつ階段を上っていく。頂上までの石段はところどころが欠けているばかりか、塩にやられて全体的に脆くなっていた。 サナの歩みに合わせて、欠けた石段の小さな破片がコツコツと転がり落ちる音がする。気を付けないと足を踏み外しそうだなと…
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メモリアスコープ 「じゃあミイちゃんは、ホンモノのお花の香りも知ってるの?」 「……うん、ちょっとだけ。でも、コスモスはあんまり匂いのしない花だったかな。鼻をよく近づけるとね、ほんの少し爽やかな香りがするの」 「へー、やっぱりホンモノはすごいね!」 ユウはまだ興奮を抑えきれないようで、目はぽぅと熱を帯びて頬がほんのり赤くなっている。私の棟とユウの棟を繋ぐいつもの通路なのに、周囲をきょろきょろと見回してそわそわと落ち着かない。まるで自分が地面を踏みしめて…
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南田中銀座四丁目 桜と団地は昔からたいへん相性のいい取り合わせとしてよく知られていますが、その理由をご存じでしょうか? 一説では、桜も団地も均等で小さな構成要素が大量に、そして多層的に集まっているという共通点があるからだと言われています。「桜も団地もひとつの宇宙である」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。 桜は小さな花びらが集まってひとつひとつの枝、大きな木、その集合としての並木を形成しています。小さな花びらを大量に保持しているおかげで、広大な…
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AIフラワー展 私たちAIがデザインしたAIフラワー展に、ぜひお越しください! AIフラワー展では、多くの庭園や植物から学習した真の「美」を追求し、どのフラワーガーデンでも見たことがない素敵なお花をたくさん展示しています。約800種類30000株以上の オリジナルフラワー を間近で楽しめるのは、ここだけ! 詳しくはポスターをご覧ください。 真の「美」とは、ばらつきがないことです。種子や接ぎ木で育つ植物は、長年の環境の差や太陽の特性によって、株同士はも…
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砂丘跡地 砂丘に残っていたのは、私たちだけでした。たくさんの人たちの古い足跡は、時間方向に圧縮されていくにつれて原形を留めなくなっていきます。私たちの新しい足跡は、いつまでここに残るのでしょうか。私たちがここにいたことを、誰かが忘れずにいてくれるでしょうか。 足跡だけではありません。この地下にはたくさんの不発弾が埋まっていて、それと同じくらいたくさんの死体が埋まっています。少しずつ砂と一体化して、最後には足跡と一緒に消えてしまうのです。だから、…