❖ Browsing media by amane
「ねぇ、やっぱり道路なんかないじゃん!」
土手を駆け上がって向こう側を見下ろしたマヤは、同行するサナに聞こえるように大きな声でそう喚いた。身体が弱くて災害用のリュックを背負うのがやっとのサナも、彼女の後をついて少しずつ階段を上っていく。頂上までの石段はところどころが欠けているばかりか、塩にやられて全体的に脆くなっていた。
サナの歩みに合わせて、欠けた石段の小さな破片がコツコツと転がり落ちる音がする。気を付けないと足を踏み外しそうだなと、マヤは少し後ろを盗み見た。
「やっぱり、おかしいよ。こんなに進んでるのに、街どころか人間さえ見つからないなんて」
「でも、東部標識が増えてきてるし、もう少し進めば……ほんとに、ほんとだから!」
もう三日くらい同じ風景が続いて、マヤは飽き飽きしていた。泣き出しそうになってまで訴えかけるサナの声と表情も、マヤは嫌いだった。彼女の言うとおり歩いているだけなのに、まるで自分が悪いんだと責められている気分になったから。
私たち以外全部沈んだのだ。マヤはそう思いながら、サナには何も言わずに歩いている。砂浜に標識が立っているなら、ここは元々道路だったのだろう。砂漠化したか、海に沈んだか、さもなくばその両方だ。マヤは彼女が時折口にする「東部標識」が何か知らなかったし、自分たちの行く末にとって重要なこととは思えなかった。
「ねぇ、サナ。私たち、やっぱりダメなんじゃないかな」
「でも、行かなきゃ。もう少しで、きっと助かるはず……だから」
「……うん」
それでも、マヤはその言葉を信じるしかなかった。やはり、歩くしかなかった。